談話室

建築設計契約は請負?

建築設計契約は請負?

建築設計契約は一般に請負契約である』との東京高裁判決が2009年 9月に確定しました。これまでの判例では「準委任」と「請負」の2通りがあり、判断は個別とされてきました。では今回の東京高裁の判断は何を根拠に「請負契約」としたのでしょうか。

(注記1)請負とは、当事者の一方がある仕事を完成させることを約束し、相手方がその仕事の結果に対して請負人に報酬を支払うことを約束する契約です。

(注記2)委任とは、法律行為を相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって成立する契約です。

(注記3)準委任とは、法律行為でない事務を依頼する契約で、委任と準委任を厳格に区別する必要は有りません。

今回の建築設計訴訟の概要を簡単に述べると、住宅の設計を依頼した建築主が工事予算額 1.7倍もの設計をした設計者を債務不履行に当たるとしたものでした。設計者は設計途中で何度も建築主に希望するグレードでは予算がオーバーすることを助言しても、建築主が聞き入れなかったと主張しています。
裁判所の判断は建築主側の主張に沿ったもので、「設計行為は請負だから予算オーバーの設計図面は価値が無い」というものです。

それでは、仮に建築設計契約が請負契約であるならば、建築主が予定工事金額オーバーだけに関わらず、完成した家が自分の想像した通りの建物ではないと言う理由だけで設計者を債務不履行で訴えるようになってしまいます。
建築の設計は建築主とコミュニケーションをとりながら、建築の専門知識や法律なども加味して建築主の曖昧で不明確な要望を形にしていくものです。この行為の中では当然ながら設計者の裁量が働きます。この設計者の裁量こそが建築設計なのです。これを否定されたなかでの設計行為は設計ではありません。しかし、設計者の裁量だからといって建築主に設計説明をしなくても良いとは言っていません。ただ専門家と素人の間で設計内容を全て説明出来ると考えるのはあまりにも幼稚な理解だと思います。これは医者と患者の関係を見れば歴然とするはずです。医者は信頼されてこそ初めて医療行為ができるのであって、建築設計者も建築主の信頼の上に拠ってはじめて設計が成り立つことを理解すべきです。
あまりにも多い訴訟のため産科医の減少が起き、廻りまわって妊婦を困らせているのと同じ事態が建築設計にも起こるかもしれません。誠意と意欲のある真面目な建築設計者ほど今回の東京高裁の判決に戸惑っていると思います。
裁判官がことの深層を考えずに正義の味方面してマスコミ受けする判断をしていると、後々困ることになるのは誰かという事を想像すべきです。

(2009年10月30日作成)

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